映画忘備録

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将軍様、あなたのために映画を撮ります:北朝鮮に拉致された映画監督の半生を描いたドキュメンタリー

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将軍様、あなたのために映画を撮ります(原題:the lovers and despot)」は、北朝鮮の映画の品質を向上させるという目的で韓国から拉致された女優と監督の数奇な半生を描いた2016年公開のドキュメンタリー映画である。

まず最初に断っておかなければならないのは、本作の「将軍様、あなたのために映画を撮ります」というタイトルが長すぎるため、チケットを頼むときに予想以上に気まずい感じにしかならない、東京都内で上映しているのが渋谷のユーロスペースしかない点を併せても観る前からハードルが高い作品である。

監督 申相玉について

本作 「将軍様、あなたのために映画を撮ります」の主人公は申相玉(シン・サンオク)という韓国の映画監督で、出生時は韓国は日本統治下であったためネイティブで日本語が話せる、そのため本作中のシン・サンオク氏の発言は全て日本語で行われている。

作中で語られる通り、シン・サンオク監督は北朝鮮で十数本の映画を製作していて、東宝の特撮スタッフを招聘して制作された怪獣映画「プルガサリ(原題:불가사리)」は完成度の高い怪獣映画として日本でも知られており、脱北後は渡米して「Simon S. Sheen」という名前で何本かの映画製作に携わっている。

北朝鮮による”拉致”とは実際どういう感じで行われるのか?

将軍様、あなたのために映画を撮ります」のあらすじを簡単に述べると、金正日が「北朝鮮で世界的に評価されるような映画を撮りたいんだけど、ロクな映画作品がないので、韓国から映画監督を拉致してきて北朝鮮で映画を撮影させちゃおう!」という、恐るべきユルい理由でシン・サンオクは北朝鮮に拉致されてくる。

しかし素直に映画を撮ってくれるわけもなく、速攻で思想改造を試みられるも転向する気が全く無いので5年間に渡り思想犯収容所に収監される羽目になる。

その後「これOKって言わないと永久に出れない、というか死ぬな」ということに気が付いたため、素直に従うようになり金正日との面会に至るのだが、その際に金正日が言うには


「ちょっと手違いがあって意味もなくシン・サンオク監督を収監することになってしまって反省している」

「同志には連れてきてどうするのかを説明しておらず、”ただ連れてこい”としか言ってなかったのが原因だ」


と、さらっと「ごめん待ち合わせ場所を間違ってたわ」くらいの感じで事情を説明してくるのだが、どう考えてもギャグにしか聞こえないあたりが金正日総書記の人徳を感じさせる。

それ以降の金正日申相玉

これ以降、シン・サンオクと金正日は(表面上は)友好を深め、対外的には「自由な製作環境を求めて北朝鮮に亡命してきた、北朝鮮の生活には満足している」というようなことを繰り返し言わされていたため、北朝鮮外部の人間の間では「シン・サンオクは拉致されたのではなく自分の意志で亡命した」というように認識され、韓国では完全に裏切り者だと思われていた。

その後、外国の映画祭に参加する際に監視員のスキをみて米国大使館に駆け込み、米国へと亡命しシン・サンオク拉致事件の全容が明らかになった・・・というのが大体の筋書きである。

本作への不満点

というわけで本作「将軍様、あなたのために映画を撮ります」は数奇な運命をたどった映画監督の半生を、自身の撮影した映画をコラージュしながら進行していくというドキュメンタリーなのだが、どうも「北朝鮮による拉致事件」の方にウェイトがおかれすぎているように感じた。

実際に原題も「恋人たちと独裁者」というもので、謎の国北朝鮮の不気味さを強く印象付ける作品になっているのだが、これはおそらく日本人には「北朝鮮というのは外国人を拉致する国」という認識があるのだが、本作はイギリスで製作されているために「そもそも国家の意思として外国人を拉致してくるという異常性」の方に強く意識が割かれてしまったのではないかと思われる。

そのため「高名な映画監督が拉致されてきて、しかもそのあと映画を十数本も撮影して残した」という事実についてはあまり深く触れられることはない。

しかしながら前述した「プルガサリ」の東宝スタッフなどの証言によると、エキストラが数千人単位で使えるとか、製作資金が無尽蔵に使えるとか、仲良くしてたスタッフが突然失踪するとか、ホテルに盗聴器が仕掛けられているとか全体主義国家ならではの特殊な撮影環境というものがあったらしいので、あえて「映画監督が拉致された」という事件を題材にとるのであれば、そこを重点的に描いて欲しかったのが不満点である。

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