読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

映画忘備録

映画を見た感想を、ひたすらメモっていくブログです。

鑑定士と顔のない依頼人:物凄く贅沢な傑作なのだが、誰に薦めていいのかわからない

f:id:hate_miyo:20141206005503j:plain

ジュゼッペ・トルナトーレエンニオ・モリコーネ

ジュゼッペ・トルナトーレといえば、あの「ニュー・シネマ・パラダイス」や「海の上のピアニスト」 の監督であり、映画好きならだれもが2ミリ秒で思い出すであろう巨匠である。

さらに本作「鑑定士と顔のない依頼人」(原題:The Best Offer)の音楽を担当しているのはエンニオ・モリコーネで、この人はマカロニ・ウェスタン*1で有名なセルジオ・レオーネ監督とずっとタッグを組んでいた*2ので有名な音楽家で、「ニュー・シネマ・パラダイス」の音楽も担当している。

つまり「ニュー・シネマ・パラダイス」のコンビなわけだが、その効果は如実にあらわれており、「鑑定士と顔のない依頼人」の音楽と画面から溢れる贅沢感は過剰とも言えるレベルである。

鑑定士と顔のない依頼人」のあらすじ

主人公ヴァージルは60過ぎの美術鑑定の権威で、美術品のオークションを生業にしている非常に頑固かつ偏屈な人物、人付き合いを避けているため独身なのだが、経済的な余裕と美術鑑定士としての品格があるため、そこに悲壮さはなくエレガントで紳士的な人物でもある。

そこにクレアと名乗る人物から美術品の鑑定依頼が来るのだがその依頼人は決して姿を現さない、なぜかというと広場恐怖症で、自分の部屋から出ることができないという最強クラスの引きこもりだからだ。

この依頼人クレアの態度に不信感と非礼さを感じたヴァージルはこの鑑定依頼と買取を断ろうと考えていたが、その事情を知り理解を示す。

また、このすぐ近くにいるのに顔が見れないという状況を繰り返す内に、クレアに対して好奇心を覚えたヴァージルは、何とかクレアの姿を一目でも見ようとし、二人で症状を治療しようとする間に互いに惹かれあう。

というのが本作「鑑定士と顔のない依頼人」のあらすじなのだが…

ネタバレについて

この「鑑定士と顔のない依頼人」は、後半に壮大なネタバレがある映画なので初見ではもちろん知らない方がいい…知らない方がいいのだけど、そこを隠したままだと話が全く出来ない映画でもあるため、以下はネタバレを気にしないで話を進めていくので、見たくない人は注意していただきたい。

映画の撮り方が丁寧で上手いという罠 

鑑定士と顔のない依頼人」はミステリというよりは、ラブストーリーに近い内容で、他人に心を開いたことのない初老の老人が親子以上に年齢の離れた青年から恋愛のアドバイスをされたりしながら、これまた他人に心を開いたことのない女性と徐々に心を通わせていく様を丁寧に描いていく。

という、いかにもヨーロッパ映画っぽい素朴な心温まる物語を叙情豊かに描いた作品・・・という”感じ”に完全に観える。

話が面倒臭いので先にネタバレしておくと、実は引きこもりの依頼人クレアはヴァージルを騙すための仕込みで、ヴァージルを信用させて隠し部屋に保管している高価な婦人画を根こそぎ奪い去る計画なのだ、なのでこの丁寧さは罠である。

伏線と脚本がちゃんとしているという罠

しかも、ヴァージルは美術鑑定士で”偽者を見抜くプロ”なのに依頼人のクレアが”偽者”なのは見抜けなかったとか、クレアが閉ざされた部屋から出てくるというのが、部屋に保管されてる婦人画が出て行ってしまうというエンディングと対応しているとか、オートマトンが徐々に完成していくのが、頑固だったヴァージルが他人を信じる心を取り戻していくのに対応してるとか、伏線とか脚本もスゲーちゃんとしているが、これももちろん罠である。

解釈を観客に委ねるエンディング

全てを失い事実を悟ったヴァージルは、その後生きる気力を失い介護施設で無気力なまま過ごすが、そこに手紙が届き「ナイト&デイ」というレストランを訪れる。

そこはかってクレアが語った思い出の場所なのだが、そこに一人たたずみ、ウェイターの「おひとりですか?」という問いに、「いや、連れがいる」と答えて映画は終わる・・・

ここで終わるので結局ヴァージルがどうなったのかは観客の想像に委ねられていて、クレアが突然心を入れ替えてヴァージルに手紙を寄越したのかもしれないし、単にヴァージルはクレアの中にただ一つあった真実である「ナイト&デイ」で、ひたすらクレアとの思い出を胸に生き続けるのかもしれない。

webで「鑑定士と顔のない依頼人」の感想をいくつか見てみたが、多くの人はこれをバッドエンドとして捉えているようだ、それも当然で仕掛けた方はかなり徹底的して騙しており、まったく躊躇や罪悪感のようなものは感じられず、改心する余地があるとは思えないからだ。

ある種もったいない映画

ちなみに私はこういう「純真そうな女だと思って手を出した男が後悔する話」が大好きだという性癖があるので「鑑定人と顔のない依頼人」は全然OKな方である。

とはいえ、愛情を育む過程をそこら辺の恋愛映画を遥かに超えるクオリティで丁寧に豊かに描いておいて落とすという構成であるため、この前段の「丁寧で豊かに描かれている愛情を育む過程」がせっかくちゃんと出来てるのに、素直に評価できなくなってしまっている・・・だって全部嘘なんだもん。

そこが「鑑定士と顔のない依頼人」の評価が微妙に低めになってしまっている主要因だと思うのだが、それはストーリーと監督の組み合わせが相性が良過ぎる、もしくは悪過ぎるからで、これを大人しく素朴な恋愛映画にしておいたら絶賛されていたと思うし、そういう意味ではもったいない映画であるといえる。

そういうわけで、ストーリーが変に捻くれているために迂闊に他人にはオススメしにくいものの、主人公が美術鑑定士という設定であるため様々な名画や美術品に彩られた画面とモリコーネの壮大な音楽の組み合わせによる、過剰なまでに贅沢感が溢れた非常に豊かな映画であり、これをそれだけの理由で観ないのは非常にもったいないと思う。

 

映画『鑑定士と顔のない依頼人』公式サイト

*1:イタリア製の西部劇のことで、アメリカでは「スパゲッティ・ウエスタン」と呼ばれる、「マカロニ・ウエスタン」は日本での呼称で「荒野の用心棒」を公開する際に淀川長治が考案したもの

*2:「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」など

広告を非表示にする